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昇級昇段審査の役割って、そこだけじゃないと思う


先日、精晟会渋谷の7級から二段までの昇級昇段審査が行われました。松尾正純師範に審査をお願いしました。


今回は昇級審査を受けないとか受けていいんだろうかという人が二人いたので、「級の審査ぐらい、迷ってないで、とっとと通過しろよ」とか「昇級審査って、完璧に出来なきゃダメってわけじゃなくて、その級のレベルをクリアしてるかどうかを見るだけだから」と言って受けてもらいました。


私は普段の稽古で組んだり見たりしているので、その人がどの程度か理解しています。

クリアしているポイントもあれば届かない動きも審査では出てきますが、その後の稽古で修正していけばいいと思っています。



昇段審査を受けた人は、次の日の稽古で「片手持ち自由技で最初に投げたところぐらいから、頭が真っ白になっちゃいました」と言っていました。すると他の人が「あれは体力的にも大変ですよね」とフォローしました。

すかさず私は、「当たり前じゃん。体力的にも精神的にもキツイの込みで昇段審査だよ」と突っ込んでおきました。


そう、規定の動きや技ができるかどうか、そのレベルを問うのが審査ですが、きっと昇級や昇段はそれだけじゃない。いろんなことが得られるのが、昇級昇段するということなのだと思います。


型稽古の合気道で技ができるかどうかだけなら、そもそも級や段はどれだけの価値があるでしょう。




異常に緊張してますという7級受験者


7級を受けた人、二人の話です。


ひとりは審査前に外で出くわしたので「どう?」と声をかけると、「なんか異常に緊張してます」と返ってきました。

もうひとりは、「前日は緊張して4時間ぐらいしか眠れませんでした」と言います。私は、なんて過剰なと驚きました。でも審査では二人とも、「どのへんが緊張してた?」と聞き返したくなるような内容でした。問題なくやれていたと思います。



7級は精晟会渋谷では、最初の級。審査時では無級だから、初めての経験。緊張してしまうのは無理ありませんが、なんか初々しい反応です。それがいくら、おっさんであっても(笑)



自分自身のことを思い返してみると、確かに緊張してはいましたが、そこまでではありません。しかし昇級昇段審査の緊張感は、社会人になってから経験する緊張の中でも種類というか、質が違います。

審査は「わずかな時間で終わることが分かっている緊張」です。そして、自分の気持ちの持ち方がストレッサーなので、客観視しやすいはずです。


仕事での緊張はどうでしょう。重要な商談なら、直接的な場面だけでも1時間とか数時間とか。上司や取引先から怒られたり、管理されたり人間関係のプレッシャーは、数年数十年かもしれません。



それに対して7級審査なら、精晟会の審査規定では6つの技の仕手受け。なので長くても10分ちょっとで終わってしまいます。10数分で終わることがあらかじめ分かっている緊張を、どうコントロールするかだけです。

10数分をスムーズに乗り越えれば、急に弛緩がやってきます。心地のいいリラックスなので、たいがいの人は饒舌になります。


緊張する場面でも、リラックスできるかどうか。リラックスできるのが最善です。リラックスまではできなくても、緊張感の中で、自分がどれだけ普段通りに動けるかどうかです。


少なくとも相手は、敵ではありません。打ったり腕を掴みに来たりしますが、それは既定の動作。隙があるからと、反対の手で殴って来たりしません。

合気道への悪口として、予定調和と言われたりしますが、予定調和です。そう、お約束です。

だからコントロールする対象は、自分自身。



精神論としての自分との闘い、みたいな大袈裟な話ではないですが、心と身体の制御は、自分自身の問題でしかありません。それが、本番わずか10数分間の課題ですから、自分をコントロールすることの入り口、入門編としては、とても良くないですか?


6級5級、そして1級へと昇級していくと、稽古は審査技だけを行うわけではありませんが、合気道の基礎的な技から、だんだんと高度な技を行うことになります。とはいえ単純に言えば技の数が増えていくだけですから、徐々にハードルが上がります。技の習得はもちろん、自分自身をコントロールすることを段階的に経験していけるのです。



そして姿勢を維持する力や呼吸力が身についてくるはずです。それなりに心をコントロールできても、身体ができてこなければ、合気道に必要な身体の制御はできません。

そこは稽古量をこなすし、日常の動きにも気をつけるしかないと思います。




急に基準が上がるのが二段審査


級の審査は、徐々に技数が増え、指定技が入ってくるし、一級では胸持ち自由技があります。初段審査の項目は、一級と同じなので、求められるレベルは違いますが昇級審査の延長みたいなものです。


ところが二段の審査では、任意に指定される指定自由技と、二人取りが入ってきます。基本動作-相対から含めて15種類。通常、だいたい1時間はかからない、ぐらいでしょうか。

普通に考えて、これを休憩なしにこなすのは、体力的に大変です。


その最後に二人取りですから、限界に近くなっても不思議ではありません。


私は養神館に入ったとき、二段審査から二人取りなんだ。それは楽かもと思っていました。

なぜかといえば、それ以前にやっていた流派では二級審査で二人掛け。初段審査では四人掛け、二段審査では五人掛けでした。


しかし内容が違っていたのです。

以前の流派では、両肩取り。掛かっていく人数が増えても、仕手が投げている間に後ろから掛かっていたりはしません。両肩取りなら、瞬時に捌かなくても大丈夫です。

対して、精晟会の審査規定では二人取りは正面打ちと正面突き。しかも養神館に入って初めて見た昇段審査は三段審査だったと思いますが、衝撃的でした。松尾正純先生が、受に「行けー行けー」と怒鳴られていたのです。



どうして受が? 怒られるのは、こういうことです。

仕手が投げようとしている。すると他の受からは隙だらけ。そのときに受が打ったり突いて行ったりせずに、待っていると怒られるのです。もうこれはヤバイな、自分にできるかなと(笑)

さらに養神館全体だと思いますが、仕手は自分から仕掛けるのです。受が待っていたら、自分から動くのです。




多人数こそが合気道の本質的な稽古?


私は、こんな環境で昇段してきたのですが、そんなことを急にやらせるのは難しいと考えています。だから精晟会渋谷の稽古では、段階的に多人数取りに慣れるようにしています。



まず数人が正面打ちで掛かって行くのを捌く稽古を、たまにやっています。初心者も、そのときに体験の人がいれば体験の人も参加します。仕手は捌くだけで、投げたりしません。

これが多人数取りの第一段階の、体捌きの稽古です。数人を捌き続けることができれば、二人取りや三人取り捌きは簡単になります。

また初心者にとっても数人に囲まれて攻撃されるなんて、そんな経験まずありませんので、パニックにならないための稽古法としてもいいかなと考えています。



次に、そこに正面突きを加えていきます。ここまでくれば昇段審査の多人数取りの設定と、それほど変わらなくなります。仕手が投げないだけです。もちろん投げたりしないので、誰でも安心して打ったり突いたりしていけるのですが。

設定が実用的なわけではありませんが、瞬時に捌いていくだけの動き方が次々に出来て、走り回れるなら、それだけで護身的な意味は大きいはずです。腕を取られて離脱法とかの護身術もありますが、本質的にはこちらの方が、はるかに重要だと思います。


二段審査を受ける人にとってはもちろんですが、白帯の人たちも、間合いの感覚や視線の使い方も含め、それなりのスピードでの体捌きができるようになります。


合気道の前提は、多敵。残心を行う通常の技とはかなり異なるので、早くから取り組んでおくのは、メリットが多いと思っています。多敵では、とにかく動き続けることが前提。その動きは入り身を中心とした体捌きであり、たまに転換。相手に隙があれば一挙動の技で倒す。それが合気道の核心だろうと、個人的には考えています。




二段審査はこの二人取りまでをこなせる体力と冷静さが求められるので、途中で真っ白になってしまうのは問題です。でもそこに精神力を持ち出して、禅や瞑想に取り組んでも、たぶん何のプラスにもならないでしょう。

解決するには、それだけの稽古量をこなして行くしかありません。量の中で力んでいなければ、それなりにこなせてしまうのではないでしょうか。個人的な私の見解ですが、昇級昇段はプレッシャーがあっても力まずに動ける、そのレベルのピラミッドでもあると解釈しています。


ポイントはどう考えても、力まないことです。

そうじゃなければ、若くないと二段審査はこなせません。力むから体力を必要以上に消費するのだと思います。そしてリラックスしているから、相手の状態を感じ取れるし、全体を見ることができてくるのです。



私は還暦を過ぎましたが、このGWの10日間、他流の講習会も含めると8日間稽古していました。やり過ぎかな、とも思っていましたが、まったく平気です。4日間は精晟会渋谷の稽古なので、力まなくて当たり前ですが、自分のところ以外の稽古でもあまり緊張しないので、平気なのだろうと思います。



とはいえ実際の多人数取りでは、予期せぬハプニングが起こってきます。




予定調和ではない状況をどうこなせるか


私が三段審査を受けたときのことです。


三人取りの受で、正面突きを担当していました。突いて行ったら、仕手も突っ込んできて、まるでラリアットのように腕でガツンと胸を強打され、膝が落ちました。正面入り身投げ(一)です。多人数取りでは(二)を使うことはありますが、まあ(一)は見たことがない。

仕手が無茶だというよりも、予想もしていなかったので、私が対応できなかったのです。


三人取りの仕手をしていたとき、いきなり顔面突きが飛んできました。多人数取りの突きは正面突きですので、中段を突いてきます。それがいきなり上段に来たのでビックリしましたが、とっさに問題なく対処できました。

走り回りながらなので、突きがブレるのはありがちです。いや、そう思いたい(笑)

体捌きの基本は、中心というか正中線上を護って動くことなので、中段だろうが上段だろうが、手は違っても胴体の動きは同じなんです。




それよりも、桁違いに緊張したのは審査は、指導者資格審査でした。


現在、指導者資格は養神館本部でしか取れませんが、数年前まで精晟会では、鶴岡八幡宮で行われる鎌倉指導者研修合宿で取るのが通例でした。


精晟会で、鎌倉指導者研修合宿で指導者資格を受けた人にとっては、まず間違いなく、あれが最も緊張した審査でしょう。

何より数名の師範に、審査されます。周囲は外国人も含め、黒帯ばかりです。そんな環境で審査が行われるのです。緊張し過ぎて、何もできなくなってしまった人もいたほどです。


私も審査前は、バクバクでした。受けろと言われたから受けただけなので、なんの覚悟もありません。以前にも書いていますが、指導者資格審査は通過儀礼でしょ、ぐらいにしか考えてなかったのです。指導者資格は、実質的に審査を行うための資格。当時は道場をやるなんて夢にも思っていませんので、なんの必要性も感じていなかったのです。



私が二ヶ条(ニ)を行ったときだと思います。精晟会会長、松尾正純先生ですが「今のは出来過ぎだ。誰か受けてみたい人!」と叫ばれたのです。え、なに? 受を替える? 指導者資格審査は、技を通常のスピードで行うことと、説明しながら行います。それが出来過ぎって‥。

たぶん二ヶ条で落としから回すところで受が飛んだことを、出来過ぎだとおっしゃっているのでしょうが、私にとっては通常のことです。当然のことながら物理的な現象なので、あまりに体重が重いと飛ばせません。


え、巨漢の外国人が出てきたらどうしようと心配はしましたが、そこは審査のポイントではないはずです。というか、そんなことをできる人は、ほとんどいないのです。

出てきたのは身長は高いものの、それほど重い人ではなかったので、問題はありませんでした。




私にとっての審査で難関だったのは、そんなところです。

こう書き出してみても、強靭な肉体や強靭な精神とは無縁です。そもそも合気道は、アドレナリンを噴出させて戦うようなことではありません。であるなら、絶対的な強さとも無縁です。



それなりのプレッシャーの中でどう平常心を維持するか、自分の動きをコントロールできるか。さらに予期せぬことにも対応できるかどうかですから、私にとってはこういう経験が、とても自信になっています。さらに歳を重ねても、それなりにコントロールできるだろうなという予感もあります。



やってきたことは大したことありませんが、現在の年齢でもそれなりに動けているのには、内心では驚いています。昔の自分が、まったく予想していない状態です。それはきっと合気道のおかげ。

合気道ではなく、他の武道を続けていたとしたらどうだろうかと想像することがあります。たぶん、あちこち故障して壊れているか、年相応にしか動けなかっただろうなという気がします。




昇段のお祝いは100人取りで


また別の意義としては、そんなことを大勢の前で公開しているので、プレッシャーとともに、段位だったり指導者資格を、周囲が認めてくれるのです。

二段になった人には、そう話ました。


そうだ認めてくれるといえば、私の所属道場・精晟会横浜合気道会や精晟会あざみ野で、初段になった人に行っている恒例行事があります。それは100人取り。

100人取りといっても、もちろん極真空手の荒業のような超人を目指すものではありません。そこにいる全員が、技にある方法ならなんでもありで、順番にかかっていきます。初段になった人は、それを投げていきます。



そこまで人数はいませんので、20人なら5回、10人なら10回ずつ仕掛けていきます。初心者もいるので、仕手は配慮して投げます。つまり技の技術だけではなく、冷静な対応が必要なのです。

二段になった人は初段を養神館本部で取っているので、うちでは100人取りでお祝いしたいと思います。まだ本人に言ってもいないのに、ここに初めて書いておきます。

そうそう一昨年に、うちで二段になった女性が初段を取ったのは、大学の合気道部。彼女にも、100人取りをしてもらおうと思います。


さあ、みんなに予定してもらわないと



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