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なにかとマニアックな二ヶ条論


剣による二ヶ条

二ヶ条コンプリートというYouTube動画を作りました。ベースになる形は養神館の基本ですが、身長差があったり、肘や肩を抜かれた場合どうするかも盛り込みました。 それは普段の稽古で、当たり前に聞かれるからです。現実に頭ひとつ分も身長差があると、基本通りの形というよりも、二ヶ条が効いてくる理合いを理解していないと対応できません。二ヶ条とは、多くの合気道で言われる二教と、基本的には同じです。

この動画の中で最初の方に、二ヶ条の基本として「腕をくの字にし、手首に痛みを与える」というフレーズを引用しました。私はこれを見つけたとき、けっこう驚きました。昭和51年発行の『養神』基本技総集編に出てきます。合気道養神会が創設されたのは昭和31年ということですから、創設期ではありません。

養神第10号 基本技総集編

ところがそれ以降の出版物で、私の手元にあるものでは「手首に痛みを与える」とは出てこないのです。動画を作るのにあたってDVDになっている養神館合気道技術全集まで改めて見てみましたが、「手首を締める」となっています。あれ? 痛みは、どこ行ったんだ?

私はYouTube動画の中で、「痛くするのは本筋じゃない」と言い、塩田剛三先生の『合気道修行』から「痛がらせるのは初歩も初歩」「こらえられない方向へ攻めているから、痛くなくても崩れる」との言葉を引用しました。 どこからも疑問は出てきていませんが、養神館はそんな矛盾するような二ヶ条解説をしたんだ。昭和51年以降に、変更したのか。変化したのなら、その理由は何? ぐらいの指摘は出てきそうなのですが。

動画では、そこまま複雑なことを盛り込めませんので、ブログで私の見解を書いてみます。 あくまで私見ですが、どうすれば痛くなるか、壊すことになるかを知っておくことは必須なのです。え、必須なの!? 動画のタイトルは「壊さず 効かせるための二ヶ条コンプリート」なのに矛盾してないか? と苦情が出そうです(笑) 

まあお暇だったら、読んでみてください。

【合気道は逆関節ではなく、曲がる方に曲げるから安全?】

一般的に関節技と呼ばれるものは、関節を曲がらない方向に曲げます。つまりそのまま続けると折れるという恐怖心と激痛から、競技ならタップします。

ところが合気道は、逆関節ではなく、関節が曲がる方向に曲げるから安全だという言い方をあちこちで見かけます。植芝盛平開祖は「合気道は関節のカス取り」だとおっしゃったとか。

というかこの言葉も塩田剛三先生の『合気道修行』に書いてあるのです。どこに書かれている「カス取り」フレーズも、たぶん出典元は『合気道修行』。そして「手首を鍛錬し、血流を良くして新陳代謝を高める」とも書かれています。しかし、それだけならストレッチと同じになってしまいます。二ヶ条がストレッチのような適度な刺激だけなら、落とすことはできないでしょう。

【関節の可動域は、人それぞれ違う】

若い女性は、関節の柔かい人が多いです。柔らかいどころか、外側に曲げて指が手首に着いてしまったり、肘を伸ばすと180度以上に開いてしまう人だっています。

対極的なのがおじさんで、長座の前屈で腰がほとんど前に倒れない人だっています。外からは、肩甲骨がまったく動いていないんじゃない、と思える人だって少なくありません。

つまり曲がらない方向にだって、曲がる方向にだって、人によって曲がる限界はかなり違う。だとすれば、逆だから危険、順だから安全とは言えないのではと思います。 硬い人は二ヶ条の形に持っていかれると、心理的にストレスが強くかかって自分から固めてしまい、肉体的な現象以上に早くから痛みを感じてしまうのかもしれません。

実際には痛めてしまうような危険があるのは、可動域の限界以上に曲げようと強い力を加えた場合です。あるいは瞬間的に、手首の一点に集中した強い力を加えた場合です。 理学療法士や整形外科の先生のような専門家ではないので間違っているかもしれませんが、関節の骨そのものの限界というよりも、骨と骨とをつなぐ靭帯や、骨と筋肉を結合させている腱の柔軟性も関係してくるはずです。多くの場合損傷してしまうのは、靭帯や腱ではないでしょうか。

関節可動域について調べると、厚生労働省のサイトでは手首の屈曲は0-90°となっています。いろいろ調べていくと、「他動的にすれば直角くらいまで曲がる」ということのようです。

これを私なりに解釈すると、自分の意識だけで自分の手の平を下に曲げる(掌屈)と70°-80°ぐらいだとする。それに左手を添えて押すと90°ぐらいにはなるということではないでしょうか。それなら、他人によって掌屈させようとすると、同じ90°でも肉体的な実際以上に、危機感を抱くのだと思います。

二ヶ条に限らず、かなり以前から骨格構造からの説明も探していますが、前述の通り、一カ所の可動域なら調べることができます。でも手首→肘→肩など連動したケースは、見たことがありません。肘関節の可動域についても、屈曲・伸展に関するものしかなく、捻られる場合(回内・回外)の角度表記は、いまだに見つけることができません。

【どうしてくの字にする必要があるのか】

養神館では「くの字」と表記されていますが、Zでもなんでもいいんです。

手首が内側に曲げられると、肘に緊張が走ります。肘が曲がると、肩に緊張が届きます。多くの人でその角度が90度ぐらい。平面上で手首90度肘90度ぐらいになると、肩までヤバいという感じになると思います。 医学的にどうなのかは分かりませんが、あくまで私の体感を言葉にしてみました。

ですので観念的な説明ですが、この状態は手首に加えられた圧力が肘肩にまで届いた状態。片手持ちの二ヶ条などでは、そこから相手の手首を相手の方に回します。

平面上の手首90度肘90度になった状態から、さらに手首を相手の方に捻ります。平面から今度は立体的な捻れになります。

この捻れが送り込まれると、肩甲骨あたりまで緊張してきて、手首から肩甲骨までがつながってロックされたように固まってきます。そこに重みが加わると、腰が落ちてしまうのだと私は考えています。

「くの字」の形になること自体が緊張を伴い、さらに手首を内側に回されること自体が多少の痛みを伴います。手首が「くの字」に曲げられた状態は、「気が出ない形」だとする流派もあります。

曲げられた手の甲に、手の平や胸などを当てられ、壁を作られると、腕を伸ばせば自分でより曲げてしまい痛さを増すことになります。逆に腕を縮めようとすれば、自分の身体が壁になります。よほど腕が太かったり痛みに強い人なら、跳ね退けることはできます。しかし跳ね退けられなければ、下に落ちるというわけです。

二ヶ条で締める

【手首を曲げられ(掌屈)、内側に回されるとどうなるのか】

可動域がどうかという問題とは別に、簡単なテコの原理でも説明できるはずです。

下の画像は、片手持ち二ヶ条抑えで二ヶ条が効いてくる形に持っていって締め、下に落とそうとしているところです。このとき仮に、仕手が左手で受の右手首を空中にピクリとも動かないよう固定できたとしたら、どうでしょうか。仕手は右手の親指で、受の親指を押し回そうとします。この状態は、スパナでナットを締めているの同じです。

スパナで締める

実際の二ヶ条では、腕が受側に回されますので、そこまで強力なピンポイントの力にはなりません。

それでは腕が回るけれども、その回転軸が空中で固定されていたら、どうでしょうか。これは、グリップの部分が大きなドライバーで肘関節を回しているのと同じです。肘には大きなストレスがかかりますが、現実には固定されていないのですから、内側に回ったり肩関節を押し下げて、ストレスを軽減する動きをするはずです。

ドライバーで締める

つまり二ヶ条を単純に図式化していくと、受は下に落ちないと手首や肘に、テコによる大きなエネルギーを受けることになるはずです。

通常では、そこに重みもかかります。手首が折り曲げられていて肘が曲がった状態は、そこに加えられる力に対抗するパワーを出しづらくだけではなく、むしろ手首からの捻れを肩甲骨にまで受け入れやすい形に誘導されているのではないでしょうか。

【連動してしまうのはメンタル?】

技としての二ヶ条は、それほど簡単な要素で構成されているとは思ってはいません。

テコでの説明では固定という言葉を使っていますが、固定すると考えると、実感しやすいというだけです。

「二ヶ条コンプリート」の動画の最後の方に、(肘や肩を抜かれたら)というテーマが出てきます。稽古方法として意味あるのかと疑問ですが、以前は私自身がよくやっていたのです。

有段者同士で二ヶ条のかけ合いをする。相手は体格的に勝っている。そんな場合に、肩を脱力してしまうのです。すると二ヶ条は効きません。

動画のこの部分を撮っていたときには、稽古で初めて(肘や肩を抜かれたら)ということを言いました。するとこの受をしてくれた人は、あっさり抜いてしまいました。今まで誰にも話したことはありませんが、出来る人は簡単にやってしまいます。

なぜ稽古方法として疑問かというと、上のテコの説明と同じ条件、つまり下に落とそうとせず、完全ではなくても固定してしまえば痛めてしまいます。また脱力しているのですから、二ヶ条もなにも関係なく別なことを仕掛ければ、やはり痛めてしまうかもしれません。

まあ抜くのではなくても、固めた頑張り合いも、居着いているのですから、あまり意味がないと思っています。

本題に戻ると、意図的にどこかを抜けるということは、二ヶ条の形に持ち込まれたときに固まってしまうのは、もしかすると脊髄反射かもしれませんが、ゆっくりやってもほとんどの人は固まるので、心理的な要素が大きいのかもしれません。

少しの痛みとともに、可動域の限界に向けて捻られているという感じている精神状態が、自ら二ヶ条・二教の効く状況へ追い込んでいるのではと思うのです。

【ピンポイントの痛みでは届かない】

そして、もう一つ。動画の中で触れていないのは、一カ所への集中した痛みでは、それがどれほど大きくても、受の身体が連動して動くということはなさそうです。もちろん結果としては、強烈な痛みを感じれば下に落ちてしまいますが。

塩田剛三先生は、黒帯研修会の映像の中で「膝にこにゃあいかん」とよくおっしゃっています。私が持っているDVDはこれではありませんが、下の動画の2分過ぎからの二ヶ条の説明でも、このフレーズが出てきます。

膝にまで届く呼吸力というのは、私にはさっぱりです。

肩甲骨にまで届かせるのなら、分かります。手首 →肘 →肩 →肩甲骨という流れです。どこかに急激な力を加えると、そこにしか届きません。そこで終わってしまう。

胴体にまで届かせて、下に落とすには、手首 →肘 →肩 →肩甲骨を固めさせる必要があります。そういう力の調整です。

手首を捻られて関節の可動域の限界近くになれば、痛みを感じます。膝までは無理でも、肩甲骨に届かせるのだって、痛くなってくるような形から始まっている。

書籍の記述から痛みが消え、締めへと変化しているのは、痛くなってくるような形からの力の使い方の工夫が、合気道の本質だと、塩田剛三先生は考えられていたのではと想像しています。

「手首に痛みを与える」としてしまうと、そこにこだわってしまうことを危惧し、本質ではないので締めるといういわば力のベクトルだけを示すようになったのではないでしょうか。

【強い力でやってはいけない理由】

合気道の本質ではないから、腰や膝まで届かないから、だけではありません。瞬間的なピンポイントへの攻めでも強烈な締めでも、とにかく稽古で強い痛みになるようなやり方は避けた方がいいと、私は考えています。

それは手首関節は、思いのほか脆いということ。

例えば、筋トレ。バーベルやダンベルを使っていたり、一般的な腕立て伏せでも手首を痛めてしまう人が、一定数いるそうです。柔道やレスリングでも強く手をついて、ねんざしてしまうケースは、そこそこあるそうです。

検索してみても、詳しくは出てきません。その理由は、どうも診断が難しく、決定的な治療法もないからのようです。

困ったときのスポーツ障害治療ガイド』という本には、こうあります。

 

手首を強く突いた衝撃で起きるねんざは、手首関節の靭帯がやられて手根骨の位置がおかしくなり、手根骨不安定症となって、圧痛や運動痛、握力の低下がみられます。

この場合、八つあるうちの手根骨のどの部分がやられたかがポイントなのですが、その診断がむずかしい上に決定的な治療法もないため、慢性化への経過をたどるケースが多いのです。

 

古い本ですが、これ以上に端的な説明に出会ったことがありません(もちろん、それぞれの流儀でなら、いくらでも詳しい記述を見つけることはできます)。

また合気道の二ヶ条では手の平を内側に倒しますし、捻るので、上記のねんざとはプロセスが違いますが、手根骨は小さな8個の骨で構成されていて、靭帯がやられて位置がおかしくなるというところ。

手根骨

手根骨が小さな8個の骨で構成されているということは、それだけ自由度が高く、多様に細かな動きができるようになっているのでしょう。このことは逆に、そもそも不安定性が高く、脆いということでもあると思います。

だからどういうベクトルであったとしても、強い力が加えられて耐えられるかどうか。前述の通り、身体の柔らかさは千差万別です。ましてやこんなに複雑で小さな靭帯となると、外見からは予測がつきません。靭帯の主成分は、コラーゲン。強い弾力性はあるものの、伸びにくいのです。

舟状骨は筋肉の付着部がなく、特に不安定性な部位であるそうですし、月状骨は尺骨の間に大きなスキマがあります。武術の多くの技は、人体構造の弱点や急所を攻めるものですが、活殺法でもあるはずです。

強い痛みを与えて二ヶ条をかけるのは、合気道の本質ではないからだけではなく、相手によってはとても危険かもしれない。

心理的な要素が大きくて固まり、実体以上に痛みも感じるなら、見極めはとても難しいですが、本来は危険な技術を使っているという自覚をもって稽古するべきではないでしょうか。

適度な刺激で技をかけることができれば、身体を強化する「関節のカス取り」にもなるということかと思います。

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