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「歳を取るほど強くなる」なんてことが可能だろうか?


歳を取るほど強くなる_表紙のアップ

【年齢によってどう変化していくべきか】

佐川義幸先生は「一部の他流の人が弱くて駄目なのは体を鍛えないからだ。技でやるから体を鍛える必要がないと考えるのは素人だ。

何も分かっていない。本当は体を鍛えないと技も出来るようにはならない」とおっしゃったとの一節を、『透明な力』から引用しました。

塩田剛三先生は「植芝先生が言うには、合気道は自然であることを最高とする武道だから、自分が無理になるような体を作ってはならないということなのです。 ただし、この自然ということを皆さん勘違いしていることが多い」という文章を、『合気道修行』から引用しました。

さらに塩田剛三先生は「若いうちは、とにかく肉体を徹底的にいじめてみることです。そうした中から、自分というものがわかってきますし、精神的な強さがが身についてくるわけです。 そして、歳を取っていくうちに、次第に力が抜けていきます。 そうなったとき初めて、筋力に頼らない呼吸力というものの効果を実感することができるのです」ともおっしゃっています。

若いうちは分かりました。

じゃあ年齢とともに変化する自分が、どうすれば自然な身体づくりができるのでしょう。塩田剛三先生ご自身の鍛え方、身体づくりについて、どんな変遷があったのかを書かれた書籍はありません。

どういう柔軟体操なら適切なのかを、どうやって判断すればいいでしょうか。どれぐらいの筋トレなら効果的なのかを、どう判断すればいいでしょう。あるいは練体法的なことは?

とお聞きしたくなります。

【無理せずにいろいろ試してみること】

一気に集中してやらずに、毎日できる範囲で少しずつ試します。

それはなぜって、年齢的に集中してやると、ダメだった場合のリスクが大きい。と思うからです。現在59歳ですから、ケガまで行かなくても痛めた場合に、回復に時間がかかります。

自分では以前より動けると思っているので、まったく問題なしなのですが、老いはなかなかやっかいです。たとえば紙でシュッと指を切ってしまった場合、その傷跡がなくなるまでとんでもない日数が必要です。というか、もう完全には消えないかもしれません(笑)

だからHIITや筋トレ的なことをする時間より、ヨガやストレッチをする時間を何倍にもしています。

HIITや筋トレで筋肉を痛めるというよりも、腰などの皮膚が張ったようになります。つまりは柔軟性が落ちるということだと思いますが、すぐに対応しておいた方が良さそうだと思うのです。

ともあれ、自分で自分の身体に聞くこと。観察するというより、感じられること。感じて対応できることが、塩田剛三先生のおっしゃる「自分が無理にならない体づくり」ではないでしょうか。

ところで最近、年齢をどう受け入れるか、いかに勝つか現役を続けるか、みたいな文章を2本読みました。

ひとつは格闘家として、国内外の総合のリングに上り続けてきた青木真也選手の文章。もうひとつは『アスリートは歳を取るほど強くなる』という書籍。

青木真也選手の答えは明確です。一方『アスリートは〜』はとてもボリュームのある中で、唯一加齢が強さにストレートに結びついているのは、一カ所の文章だけです。

しかし、その両者が語っている「強さ」は、ほぼ同じことを別角度から語っていると思うのです。

【青木真也は「老い」をいかに受け入れてきたのか?】

FINDERSというウェブメディアで、青木真也選手は[青木真也の物語の作り方〜ライフ・イズ・コンテンツ]という連載を持っています。

その連載がとても興味深い。以前にもなぜ戦うのか、お金に対する考え方についての文章に、共感しました。

「父の世代からすると、物理的な豊かさはあればあるほどいいし、右肩上がりの成長を目指すのが当たり前。そこへ、有る種のミニマリスト的な思考を提示してみたところで、理解されないのはやむを得ないのかもしれない。議論は常に平行線だ」

「僕にとって、格闘技を通して求めるものは金では決してない。最近でこそ、“少なくとも、そういう考え方のヤツがいることだけはわかってきたよ”と父は言うが、本質的な部分ではまだまだ理解されていないだろう。30代の僕と60代の父の間には、この点で超えられないギャップがある」

父の年代に近い私だけど、私はだんぜん30代の青木真也選手の考え方に近い。それにプロの総合格闘家は表面的な演出だとしても、通常はイケイケ。青木選手は、そうじゃないことに驚いた。

そんな青木選手が、<青木真也は「老い」をいかに受け入れてきたのか? 頭打ちの状況でも結果を出す処世術>というタイトルで、連載を更新されていました。

あらゆる攻撃を駆使する総合格闘技は、とりわけ偶然が大きく作用する競技。だからこそ、最終的には運に委ねられるレベルまで、プロセスにおいて努力をしなければならない。結果を左右する要素としてもうひとつ、アスリートには“老い”がある。加齢によって勝てなくなるというより、歳を取るほど伸びなくなる現実がある。と書かれています。

「老いが与えてくれた思考プロセス」という小見出しから引用します。

 

ところが、こうして三十代も後半に差し掛かると、昨日より今日、今日より明日という上昇は見込めない。その代わりに、今ある限られた資源の中で、着々と落ちていくパフォーマンスをどう維持するかという発想へ切り替わる。まるで日本社会の縮図のようである。

(中略)

だからこそ、若いうちから創意工夫に頭を使うことを怠ってはいけない。逆説的ではあるが、何も考えずにバンバンやっていた選手というのは、老いが始まると一気に勝てなくなってしまうことがある。知恵を使う訓練をしてこなかったからだろう。

僕がこの年齢まで競技を続けて来られたのも、若いうちからいかに合理的に、いかに誤魔化しながら勝利を手繰り寄せるか、知恵を絞り続けたからである。それというのも、僕のキャリアは最初からうまく事が運んだものなどひとつもなく、小学校で始めた柔道にしても、総合格闘技にしても、「どうすれば勝てるのか」「どうすれば強くなれるのか」という試行錯誤の連続だった。

その思考のプロセスは、自分に考える癖を与えてくれた。すべての技術に意味を求め、考え続けてきたからこそ、加齢によって伸び止まった今も、リングに上がることができるのだ。

 

この文章からは、青木選手が少なくともフィジカルの強さ、反射神経に絶対的な自信があってリングに上がってきたわけじゃないことが分かります。

常に知恵を絞り、試行錯誤のしてきたことが、強さの裏付けということだろう。ここで私がいう強さとは、試合で勝つことではなく、ケガや故障でリタイヤせず、競技をトップクラスで続けているという意味です。

【『アスリートは歳を取るほど強くなる』という本】

ちょうど1年ほど前に出たこの本。邦題は、ちょっと煽り過ぎ。分厚いのに、確実そうな歳を取るほど強くなる理由を書いているのは、一カ所しかありません。

他は、トップアスリートたちがどうやってピークを伸ばしているかについて書いているけれども、サブタイトル―パフォーマンスのピークに関する最新科学―という割には、根拠についてはあまり書かれていない。

スキージャンプの葛西紀明選手は、30年以上のキャリアを持つ48歳。サッカーの三浦知良選手は、53歳。いったいどんな食事やトレーニングやリカバリーをしているのと言いたくなるけれども、特別なことがあるのかどうか。

この本では、生涯アスリート時代の幕開けだといい、トップアスリートを万全に仕上げるビジネスがあるという。トップアスリートは、他の選手がやっていない方法を試しているとも書かれている。何しろワイン風呂に入ったり、凍ってしまうような箱にだって入っているとか書かれている(笑)

トップアスリートの話はともかく、たいていの人は40歳あたりから、サルコペニアと呼ばれる筋肉量の現象が始まる。50歳を過ぎると筋肉量の現象が脂肪増加の割合を超える。何か特別なことをしない限り、残った筋肉量もどんどん減少するなんていう恐ろしい話も出てくる。

とにかく「強くなる」というより、トップアスリートが現役を延ばすためにどうしているかを取材した話が圧倒的なボリュームを占めている。

競技によって違うけれども、20代半ばでフィジカルのピークを迎えてしまうものもあるから、どう延ばすかはプロにとって切実な問題だ。きっと世界で通用するプロスポーツは、選手を中心としたプロジェクト。このチームは、選手がピークをどれだけ延ばせるかどうかに存亡がかかっているはず。

章のタイトルは以下のようなものなので、プロではなくてもフィジカルのピークを過ぎた人たちには、とても興味深い内容だと思うんだけど。

◯熟年アスリートの身体も進化し続ける ◯最も疲労を溜めない者こそがプロ

◯異なるトレーニングを組み合わせで得られる効果 ◯脳をだましてトレーニングを効率化を図る

◯身体の「癖」を科学して怪我を減らす

◯遺伝的要因は肉体の運命を決めるのか?

◯精神の落ち着きとともに増す安定性

◯選手寿命を延ばす栄養学のリアル

◯熟年アスリートが求める運動後の回復メソッド

◯スポーツ寿命の極限

興味がある人は買って読んでみてください。

本題に戻します。唯一、歳を取るほど強くなる理由について書かれているのは、ここ。

引用します。

 

「フィールドで一番速いプレイヤーは最速の足を持っている者ではなく、最速の精神を持っている者だと、 ガラニスは言う。

そして最速の精神を、最も若いプレイヤーが持っていることはめったにない。

たしかに、彼ら最速の反射神経を持っている。一つひとつの神経細胞はそれを保護するタンパク質の鞘に包まれており、これが絶縁体として働いて刺激が伝わるのを速くしている。神経細胞が老化するとともに、このタンパク質の鞘が劣化するので、 20代以降はその反応時間が遅くなるのだ。

けれども、反応時間と判断速度は違う。サッカーのようなスポーツやその他の複雑な仕事では、脳が効率よく1度に処理するには、起こっていることが多すぎる。代わりに、僕たちの頭脳は、「チャンキング(複数の項目を1つの単位としてまとめる心の働き)」と呼ばれることを行い、関連した細切 れの情報をリンクさせていくつかのパターンにまとめて、取り扱う変数の数を減らして意思決定のプロセスを簡略化している。

たとえば野球なら、初心者のバッターは守備の隊形を見て、ショートとセカンド、ファーストの野手全員がいつもよりサード寄りに守っているな、ということには気がつくかもしれない。一方、より経験のあるバッターなら、ショートがにじり寄ってくるのに気づき、守備側がシフトを取っているのを悟り、右投げのビッチャーが内角の速球を投げてくることまで予測できるだろう。

 

研究者によると、まるで予知能力を使ったようなプレイをしたり、本人が「スローモーションの中で起こっているように感じた」などという場合は、このチャンキングなんだそうです。

チャンキングのベースは記憶力。関係性を見つけてセットにしたり、イメージ化することで、かたまりをつくる。それがデータベースになって、自分の脳の中にあるかどうかなんだろうと思います。

書いてはありませんが、文章から想像すると「判断速度はどんどん上げていける」可能性があるのかもしれません。

そうなら、誰でも歳を取れば強くなるわけじゃない。

きっと青木選手のように、すべての技術に意味を求め、関係性を考え続け、データの量と質両方を上げていくことが必要なのではないでしょか。

データベースを向上させれば、意思決定のプロセスを簡略化して、最速の精神を持つこともできると解釈していいのではないでしょうか。

いやたぶん、逆が真ですね。データの量と質を向上させられなければ、加齢によって、ただ弱くなるだけ。ということでしょうね。

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