護身術として役立つのは、技そのものではありません。
道場で稽古しているだけで、重大な危機にも対応できるわけもありません。それに一口に護身といっても、さまざまな段階があります。
姿勢や身のこなしや心構えなどが、役に立つことはあります。
何もしていなければ、何もできないまま。何も変わりません。
稽古していれば、過去の対自分比としてできるようになっているはずです。
合気道で
どんな護身が可能か
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護身の考え方と護身術としての稽古
女性から、こういう場合どうすればいいのかと聞かれることがあります。
もしもの場合の話かとお聞きしていると、現実に経験があってどうすればいいのか。ストーカー被害の経験があるので、強くなりたいという体験で来ていただいた方もいらっしゃいました。毎年のように通勤電車で胸ぐらを掴まれていたという男性もいて、かなり驚きました。
合気道では多くの指導者が、危険に近づかない。あってしまったら逃げると答えられているのではないでしょうか。もちろんそれがベストだけれども、逃げられない場合にどうするのか。
前述のように「警察官が犯人に向うときは、必ず複数ですし武器を携行しています。それは安全に、確実に取り押さえるため。また職業として養神館合気道を稽古している人たちと、それ以外の人の稽古量は比較になりません」と考えるのが当然でしょう。もちろん内容も質もちがいます。
さらに言えば、どんなに激しい武道や格闘技でも、一度講習を受けただけ、短期間稽古をしただけなら、ほぼ何も身についていないのです。
稽古で自分の
心身の姿勢を変えていく
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強い姿勢と強い気持ちを維持すること
職業で稽古している人たちと同じに考えるのはとても危険ですが、養神館合気道では、まず相手の攻撃をしっかり受けて止めることから始めます。中心力や呼吸力が身に付いてくれば、いつでも自分の強い姿勢を維持できるはずです。止めることができれば、流すことは容易。
相手に掴まれて引っ張られても、強い姿勢と強い気持ちを維持して離脱するのが、さまざまな技以前の護身術の基本です。
なんども書いていますが、養神館合気道の基本は姿勢の力。姿勢が整うと気持ちもしっかりするはずです。
たとえば猫背でうつむいていたり、ふにゃっと無防備に立っていれば狙われやすいというのは、誰にでも想像つくはずです。スマホを操作しながら歩いていれば、隙だらけです。
誰れでいいから害を与えようとする人は、狙いやすい相手を探して狙うはずです。特定の相手に何かしようとする人は、狙いやすい隙を窺っているはずです。
自分の身は護りたいけど、でも自分を変える努力はしたくない。もしそんな都合のいい気持ちなら、あきらめるしかないですね。
リスクに応じて
どうなるかを経験する
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日常のリスクを大きく三分類すると
話をよく聞いてみると、日常の場面では大きく三つのリスクに分けられそうです。リスクの段階を考えると、遭遇の危険性は逆になるのではないでしょうか。
護身術というとなんでも一括りにしてしまいがちですが、一緒にしてしまうのは護身ではありません。
1.通勤電車などの混雑した空間での他人とのトラブル
2.お酒の席など、近い関係の人からのセクハラなどのトラブル
3.なんにも関係のない相手から、暴力の対象にされてしまう
1.のリスクは、合気道をやっていれば基本的に満員電車でもトラブルを招かない体の使い方ができるようになると思います。
2.は酔っている相手なら、何をされたか分からないぐらいの使い方で回避することは可能だと思います。柔らかな対応じゃないと、あとから大きなトラブルを招きかねません。
3.はまずない。まずないはずだけれども、重大な問題です。合気道は腕力で対抗しません。でも圧倒的に体格差があった場合、達人級の精度で技が使えるなら別ですが、半端な技は潰されてしまいます。
一般的に合気道では、それほど具体的な場面を想定しているわけではありません。養神館には護身技と呼ばれるものがありますが、いずれにせよ合気道がかなりできないと現実的ではありません。
実際問題として、合気道であらゆるシチュエーションを想定して稽古できるわけではありません。
しかし逃げることができるだけの稽古はしたいと考えています。精晟会渋谷では護身の方法として、具体的な設定で稽古することがあります。
何リスクに応じて、何ができるか、どうなるかを、稽古で安全に経験しておくことは大切だと思っています。
合気道は道具を使うと
より効果的に
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万が一のときのために、できること
稽古中に聞かれたことは、できるだけ答えてますが、やはり、この技ができるようになれば応用もできるという順番になります。稽古の中の様々な動きができないのに、臨機応変な動きができるわけがありません。
でも、聞いたシチュエーションで当身など、即効性があると考えられる方法も稽古するようにしています。
ひとつは、対峙できる姿勢とメンタルを作ること。大きな声を出せること。当身の使い方を、ちゃんと稽古しておくこと。
精晟会渋谷では中学生から中高年まで、剣の素振りや正面打ち、正面突きなどを稽古するときは、大きな声を出せるようにしています。万が一のときに声を出せない。声がでないのは、息が詰まっている。息が詰まると、動けないのです。
養神館合気道では技の中では、必ず気合いとともに当身を入れます。
また1本の腕で来られたら、2本の腕を使ってまず離脱すること。2本の腕で来られたら、2本の腕プラス足の力を使って離脱することなども稽古しています。現実の護身が必要になる局面では、合気道の技の稽古ではないのだから、とにかく離脱する。そのためにどうするか。
なにより離脱しないと始まらないので、ともかく体全体を使うことが不可欠です。そう考えて対応をシミュレーションしておくことが、必要だと思います。
素手で対抗しようとしない
短刀取りや剣取りなど、武器に対して素手で稽古する「武器取り」があります。もちろん木製の短刀や剣ですが、あくまで安全に理合いを稽古する上での設定です。木製でも十分に危険ですし、緊張します。
本物の刃物を目の前にしたときにどんな心理状態になるのかは、それこそ遭遇しないと分からないこと。
しかし日常で剣杖を持ち歩くことは、現実的ではありません。
精晟会渋谷で木刀を使った稽古をするのは、真剣を使えるようにするためではありません。剣や杖を使って稽古していれば、モップやホウキ、傘、掃除機のパイプなど棒状の道具を使うことができます。
短刀を使っていれば、スマホや雑誌を護身に使えると言っています。合気道の徒手の技は、道具をうまく使えば、より効果が増すのです。
間違いなく言えるのは、とにかくその場にある道具を使うこと。
精晟会渋谷では、そんな稽古をすることもあります。動画にしていますので、ご参考まで。