養神館合気道 精晟会渋谷

2022年5月18日

意識を外すためのテクニックとMRの可能性

合気道では、持たれたところを意識するな、と指導されることがあるかと思います。

意識するなと言われても、どうやったら意識しないで動けるのかが、よく分かりませんよね。

以前にも書いていますが、腕を持たれた離脱法の設定。

そこから離脱するには、骨格的な抜き方、テコを使うなどさまざまなコツがあります。コツが習得できれば誰でも使えるかというと、たぶん、かなり難しい。

腕の太さ、握力など、離脱法を困難にする条件がいろいろあります。

相手の手が大きくて、手首が包み込まれてしまうことだって、女の人ならざらにあるでしょう。そんなとき、相手が本気ならコツを使う以前の段階で止められてしまうかもしれません。

なぜかといえば、動く前に、動こうとする気配を相手が察知して、反射的に力を入れてくるからです。

そうなると力の対決。体格差が大きいと、まず離脱出来ません。

察知されない。あるいは察知されにくく方法として、お湯が沸いてるヤカンを触ってしまい「熱っ!」と耳たぶを触るような動きを再現すると聞いたことがあるかもしれません。

これは、「屈曲逃避反射」と呼ばれる無意識の反応を使うのだそうです。だけど、どうやって逃避反射を起こすのか?

『反射が生む達人の運動学』は即買うべき。それぐらいに画期的な内容かと

私は、イメージを使うと説明します。

ただ、実際のところ「お湯が沸いてるヤカンを触ってしまい、熱っ!と反応する動きをイメージする」だけでも、なかなか大変です。

だからさらに私は、その人にとって想像しやすい動きならなんでもいい。要は、持たれていることを意識しなければ、相手に動き出しを察知されない、察知されにくいのです。

さらにいえば、若干の予備動作さえも起こしにくくなると思います。

だから、「持たれたところを意識するな」と言われるのだと思います。

いや、持ったところも意識しない方がいい。接点を意識しないということです。私は「意識を外す」と言っています。

離脱法だけではなく、接点を意識しないことは、すべての接触する技で重要だと、私は考えています。

幸い合気道では、使いやすいモチーフがあります。

仮想の大小の球や剣を使う

初期養神館では、基本動作・終末動作の両手を差し上げるところを「玉を捧げるように」と言われていたそうです。玉が球か、あるいは珠かもしれません。

とにかく捧げるのですから、腕や手の形はそのつもりで行います。そのあと、手を前方に降ろすので、やはり球状の重量のあるものをイメージするのが、いいと思います。

動画を作っているので、それを見てください。

終末動作では、ずっと球を持っていて、それを回したり上にあげたり、降ろしたりというイメージを使う。私はパントマイムのようにと言っていますが、そうすると回転動作を行なっていても、手腕の形が崩れず維持しやすいと思います。

終末動作が球をイメージするなら、後ろ両手持ちの技などではもっと大きな球。バランスボールの直径が倍以上になったような球のイメージなどでも、有効なのではないか。

ゴルフボールぐらいの小さなものから、巨大なバルーンまで、さまざまのものを仮想して試していますが、手腕の形だけではなく、やはり動きも整いやすいと思います。

繰り返しますが、要は接点を意識しない、捕らわれないことです。そのためには、リアルに思い浮かべやすいイメージを使うのがいいと思います。

リアルに思い浮かべられるといえば、剣や杖。精晟会渋谷の稽古では、どちらも、まず狙っていること。手元じゃなくて、先端を走らせることを意識して使っていますので、形状も動きもイメージしやすい。

特に相手の前腕を剣に見立てて動作を行うと、分かりやすく実感できると思います。

そう思って、ずっとやってきたのですが、最近MRで「意識を外すこと」がトレーニングできそうだ。これは有効かもと思える動画に出くわしました。

MRによって視覚化した表現が可能に?

2020年はコロナ禍で施設が使えず、多くの武道でオンラインレッスンが行われました。空手などでは、ZOOMで対面し、攻防の稽古も行われたようです。ゲームなどを考えれば、近未来にはフェイシングの試合のように、センサーを着けての組手試合もできるかもしれません。

私も、ZOOMでの海外への合気道講習を経験しました。

師範から呼ばれ、ご自宅で私が受を取らせていただきました。

こちらがしていることは、映像と言葉で伝わったようです。その点では、合気道でもやれる。動き、注意事項みたいなことは伝わるものの、持つ技ならその感触はまったく伝わりません。

教えられるのも、技を掛け合うのも、接触がなければ動きだけです。

オンライン合気道の限界だよなぁ。そりゃあ圧力センサーみたいな手袋、それも肘まであるようなのが開発されたら、できるかもしれないけど。でも圧力だけで重さまでは来ないし、と思っていました。

ところが最近「合気道の体の使い方の習得を支援するソフトウェア群の開発」という動画を見ました。

なんか、ハズレくさいタイトルだなぁ。と見ていると、いやいや、これはイケるかも。さらに発展させられるかもと思いました。

タイトルは「体の使い方の習得を支援」ですが、これは意識の使い方の支援です。

私が言っている、持たれたところを意識しないために、少し前方にボールを設定しています。被験者として出ている人たちは合気道未経験のようです。ボールを追いかければ、持たれたところの意識がとても薄くなる。ということが実証されていると言っていいと思います。

とりあえず見てみてください。

もちろんこれだけで学ぶと、身体は前のめりになり崩れるでしょうから、あくまで「接点から意識を外す」という1点です。

その1点だけなら、このソフトウェアは画期的です。

あ、MRとは複合現実(Mixed Reality)です。

一応簡単に説明しておくと、VRは仮想現実(Virtual Reality)、ARは拡張現実(Augmented Reality)です。ARの代表例は、ポケモンGO。ARであるポケモンGOではポケモンに触れられないが、MRでは触れることができると説明されたりします。

SF映画にはよく出てきますが、目の前にパネルやキーボードが出てきて、操作したり入力したりすることができるのがMRです。

さらに言えば、複数で参加可能なので、もしかしたら未来では多人数取りもできるかもしれないですね。

いやまあ本題に戻ると、「接点から意識を外す」ためにイメージを使っていたのが、この仕組みを使えば、目の前に掴めそうな、触れられそうなものとして視覚化される。視覚化されると、簡単にできてしまいそうです。それが初心者でも体験できるのは、とても面白いと思います。

だいたい、「接点から意識を外す」と初めて説明したときに「何それ?」となるものですから。