先日、精晟会あざみ野の稽古前、松尾千津子師範と筋を痛めた人の話をしていました。私も鼠蹊部あたりの筋を痛めたのか、切ってしまったのかしたことがあります。
そのころは養神館合気道と平行して、空手もやっていたのです。
空手の道場で回し蹴りでミットを蹴っていたところ、ブチッと音がして、たぶん自分にしか聞こえていないのですが、とにかく内股あたりに痛みが走りました。
自分の蹴りの威力が上がって、それに体が耐えられなかったのか、それとも40代になって年齢的にあちこち硬くなって、古くなった輪ゴムが切れるように切れたのか。そんなことを思いました。
別段、その瞬間以外に痛みはないし違和感もなかったのですが、ミットを蹴ると、蹴り足が狙ったところに行かないのです。上下に数センチずれるのです。元に戻るまで3ヵ月ほどかかりました。
そんなことをお話していると、稽古時間。
見ると、いつも中学生から60代まで男女20人以上はいるあざみ野の稽古ですが、あまりの暑さのせいか始まるときには数人しか来ていなかったのです。その数人はみんな40代50代。
私が準備運動をしたのですが、みんな硬い人だよなぁと思い、師範に「この人たち向けの準備運動をしてもいいですか?」とお聞きしました。
それぞれの道場で、それぞれの準備運動があります。私が指導している精晟会渋谷は、スワイショウを核に、そのとき参加している人の様子を見ながら整体的なものやヨガやストレッチを、織り交ぜてやっています。
このときも同じようにやったのですが、やっぱり硬い。肩甲骨と股関節はみんな硬い。膝裏が硬い人もいる。準備運動は、怪我をしないように稽古するためのもの。血行を良くしたり、大きな関節を動かしたりするだけではなく、硬いところをほぐすこともしておいた方がいいと思います。
ただ稽古前はそうして、稽古で体を練ったとしても、いちばんの問題は日常です。
いい人ほど、満員電車で体を硬く固めている気がします
おじさんは、どうして体が硬いのでしょうか。おばさんは、それほど硬くはないように思います。
私はそれなりに混み合った電車に乗るといつも思うのですが、周囲に気を使っている男性ほど、身を細く固めているように見えます。周囲におかまいなしに「ここは俺の陣地だ」みたいに動かない人は、そんなことありません。力んで、踏ん張っているのです。
いずれにせよ社会人になった男性は、身を硬くして通勤電車に乗っている人が多いのではないでしょうか。
こんなこと書くとあちこちから怒られそうですが、女性の場合、年齢に関係なく周囲への配慮は少ないように思えます。でも少数ですが、もたれたりせず柔らかく立っていて、周囲から押されると上手に動く女性はいます。立ち方としては、理想的ですね。
いずれにせよ、女性の場合は身を硬くしていないように見えます。
年齢によって関節の稼動域が狭くなったりするだけではなく、筋肉や筋なども硬くなるのでしょう。でもそれだけではなく、ストレスフルな日常の力みが、おじさんたちの体を加齢以上に硬くしているのかもしれません。
医学的な根拠があるわけでも、専門家でもないので、あくまで私の想像でしかありませんが。
合気道をやっていなければ、私だってガチガチになってたかも
私もあちこち硬くなっています。それでも、年齢からすれば関節も筋肉も柔らかい方かもしれません。柔らかいとすれば、それは合気道のおかげだと思っています。
社会人になって3年目の指導者資格を持つ有段者と、指導方法というと大げさですが、脱力して立つ・動作することをどうやって伝えるかを話していました。体の硬い人にも、逆に関節などが柔らかすぎる人にも、これを体感してもらうのはなかなか難しいです。
硬いと胴体や脚が塊として動きがちだし、柔らかすぎると関節ごとにバラバラになりがちです。
だから精晟会渋谷の稽古では「力の通り道」という説明をよくします。投げたあとの残心は、地面を踏んだ力が、後ろ足の親指を踵を結んだ線から内股を通り腰のこのへんを通って肩から腕を通って相手に伝わった結果が形になったものだとか。
立ったときは、バレエなど様々な身体運動で使われる天から吊られたようなイメージで、中心軸を維持する。維持するといっても楽にバランスのとれる状態が、力みがなく理想だとか。
文章にするとややこしいのですが、通り道は細いのです。
あらゆるスポーツや武道で脱力が説かれますが、合気道ではどこでも「力を抜け」ということが強調されていると思います。
さらにいえば養神館の合気道では、力を抜くことの理合いが明確です。
ボクシングでも脱力してパンチを出していると思いますが、胸を凹ませ頭を前に倒している姿勢自体は、日常生活にはどうでしょう。首や腰に大きな負担があるのだと思います。養神館の姿勢は、普段にも、ほぼそのまま使えます。
若い指導者に「合気道をやってなかったら、俺もガチガチで、しょっちゅうマッサージに行ってたかもしれない」というと、「想像できない」と驚いていました。
私だって仕事では変な姿勢でパソコンに向ってたり、緊張してミーティングに出たり、無理難題を押し付けられたり、電車に乗ってガチガチになっていたのです。
それが合気道をやるようになって、特に養神館合気道をやるようになってからは、固めることがダメなんだな。そのときの姿勢を維持するためだけに細く固めて、あとはゆるんでないとダメなんだということを理解してきました。
現実に日常の中でいい姿勢を保てる場面は、そんなにありません。仕事では、ほぼ机にしがみついて、10時間ぐらいパソコンに向っていることは普通にあります。パソコンに向うときには、こういう風に姿勢をチェックしろという健康アドバイスがあちこちにありますが、そんなの無理です。長時間パソコンに向うこと自体が、不健康なのですから。
どんなにいい姿勢で向っても、姿勢を固めことがダメだと思いますし、長時間動かないことがマズイ。だから私は座ったまま、いろいろ姿勢を変えたり動いたりします。きっと他人からはひどく無作法な姿勢だし、挙動不審に見えているかもしれません(笑)
体が柔らかいとは、関節の稼動域が広いことだけでいいんだろうか
養神館合気道では姿勢を重視します。構え、残心、基本動作など、細かく手足の位置や方向、視線などが決まっていますが、姿勢・形が整っていればそれでいいんでしょうか。
もちろん初心の段階では、それでいいと思います。でも上級者になればなるほど姿勢を維持するための最小限の筋力だけを使い、あとは脱力しておく。ゆるませておくことが必要だと思います。
最大の理由は、重心移動の力などをロスなく伝えるため。力の通り道は細い方が、ロスがありません。全身を塊にして動くと、それは体当たりで、動きが遅くなるのです。
姿勢維持以外のための筋肉を多く使っていると、瞬時に動けないのです。「次の瞬間働くことができる筋肉は、今、休んでいる筋肉だけ」です。
上のリンク先に書いたのは野口体操のやり方ですが、立位前屈で床に手がつかなかった人でも、一瞬でつくようになったりします。それは曲げる場所を変えること。体の中のことですから、意識を変えるというよりも、イメージを変えるのです。
関節や筋肉の問題だけではなく、イメージだけでも変わるのです。
いわゆる体の柔らかさは、姿勢の作り方、動き方でも変わるのだと思います。それを日常で、どう使うか。リラックスしているときに、ゆるんでいるのは当たり前。ストレスフルな環境でもできるだけ力まない方法論を身につけることが必要です。
整体やマッサージで、そのときにはゆるんでも、日常生活がダメなら、すぐに戻ってしまいます。
※他、私がゆるめることに使っているのは、こんなこと。ストレッチポールと骨ストレッチです。